当社の求人はプロダクトデザイナーが最も多いのでこのようなタイトルですが、他デザイナーにも参考になると思います。
※過去に掲載した内容を加筆したものです。一気に読みたい方はこちら。
今回は前回に引き続き、「手描きスケッチの重要性」についてです。
きれいな完成予想図はコンピュータツールを使ったレンダリングでOKです。しかし手描きのラフスケッチは考えるための道具であり、かつ相手(クライアント、同僚、上司、他部署)に伝えるコミュニケーションツールでもあります。
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ある企業に就職希望者のポートフォリオを持参して説明に行った時のこと。
先方の選考担当のデザイナーの方がそのポートフォリオの手描きラフスケッチを見て、「彼は絵が描ける方ですね。うちの製品は円の部品が多いので、この楕円を見ればある程度能力がわかります」
そしてその候補者は書類選考を通過しました。
さらに、その次の面接でのこと。その担当デザイナーが就職希望者に、「突然ですが、そこのホワイトボードに簡単でけっこうですので○○のラフスケッチを描いてみてもらえますか」
○○には製品の種類が入ります。その会社は○○の専門メーカーだったので、そこに入ればその製品をデザインすることになります。
面接終了後にその担当者に聞いたところ、「ホワイトボードは描きづらいのでうまく描けないかもしれないが、それでも描いてもらうことでどの程度の理解があるかがわかる」とのことでした。
絵を重視するというのは、絵の上手い下手じゃないんですよ。
デザインを発想するところでは、生身の人間が、手を使いながらものを描く、そして描くことで頭を活性化する──それが大事なんですよね。
(中略)
ただ、僕たちはデザイナーだから、何のためのスケッチなのかを忘れてはいけない。
僕たちにとって絵は、的確に、速く、相手を説得するためのコトバなんです。
だから学生にも、僕らの絵は記号でいい、と言ってるんですよ。
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自分の意思を「的確に」伝え、相手を説得するには、やはり練習が必要です。
参考になるスケッチの本をさらに3冊ほどご紹介します。(タイトル部分をクリックするとAmazonに飛びます)
プロダクトデザインのためのスケッチワーク
この本は元パナソニックのデザイナーで、芝浦工業大学 デザイン工学部の教授である増成氏が書いた本です。最も大きな特徴は、芝浦工大という美術を全く勉強していない学生に対して教えているので、まっすぐな線の引き方、丸の書き方、その練習の仕方から丁寧に教えてくれているところです。まだスケッチに慣れていない人は、意外とまっすぐに線を書けないですよね。でも実際のデザインの現場で線が曲がっていると、「ここってなんでRつけてるの?」と質問されてしまいます。「いや、そこは直線です」と答えると、「じゃあそう書いてよ」と怒られます。。。また、最後の方に「スケッチ指導」という章があります。こちらもとても良いのですが、芝浦工大の学生が書いたアイデアはあるけど説明できていないスケッチを、増成先生がシンプルな修正で見事に意図が伝わるように書いています。この本は特にスケッチが苦手な人、美大を受験していない人におすすめです。
Design Sketching
KEEOS Design Books (Klara Sjölen and Erik Olofsson)
英語のスケッチの本ですが、スウェーデンのデザイン学校が中心となって作ったようです。
他の本との違いとしては、それぞれのスケッチに何を使って描いたかが記載されている点。例えば「青鉛筆」だったり「黒鉛筆、ボールペン、マーカー、楕円定規」「黒鉛筆、Painter」「ペン、マーカー、Photoshop」等。
おそらくその学校の学生のスケッチでしょうが、手描き説明用スケッチをメインとして構成しているので、とても参考になります。また、最終章でマーカーで簡易に陰影だけをつけたラフスケッチの描き方を、ステップバイステップで解説しています。
※日本のAmazonでは扱っていないようです。。。本のタイトルに貼ったリンクは海外のAmazonのサイトに飛びます。
気になるモノを描いて楽しむ 観察スケッチ
檜垣万里子 (著)
こちらは少し変わったスケッチです。twitter等で「#観察スケッチ」で検索するとたくさんの方々が身近な商品を観察してその構造を丁寧に描いた手描きのスケッチが多数出てきます。
この本は、その中でも特に数多くの素晴らしいスケッチをアップしていたプロダクトデザイナーの檜垣万里子氏の「観察スケッチ」を集めた本です。特に学生さんや若いデザイナーは、ぜひ参考にして自分でも描いてみていただきたい!描くだけでスキルアップになります。転職したいという方で「現職では希望の分野の製品ができない」という方も多いのですが、その分野を希望している、という気持ちをポートフォリオに示せると強いです。
今後転職したい分野の製品を「観察スケッチ」で研究・分析して、多数掲載しておけば、「当社の分野は未経験だが、いろいろと勉強しているから入ってから即戦力になるまで早そうだ」と思ってもらえると思います。
どんな職種でも採用試験で面接を必ず行うのは、候補者のコミュニケーション能力を知るためです。デザイナーは言葉に加えて、絵でもコミュニケーションします。絵によるコミュニケーションは、言葉がわからなくても世界共通に通じるという利点もあります。これもデザイナーの強みだと思います。
ポートフォリオには、最終レンダリングだけでなく初期段階の手描きアイディアスケッチを加えることを強くお勧めします。
<追記>
手描きスケッチと言っても、必ずしも紙と鉛筆やマーカーだけを示すわけではありません。ある自動車メーカーのデザイナーの方から「手描き能力」といわれたのは、「ペンタブを使ったPhotoshop上でのカースケッチの能力」でした。
※マーカー=古いというのも正確ではありません。多くの企業は着色はPhotoshop等ですが、ある最先端の企業では「ある段階ではマーカーでのスケッチを現在も採用している」とのことでした。また、某化粧品メーカーの中途採用の課題は、「当社ブランド○○で、コンパクト、ボトル等をデザインしてください。2週間後、来社いただきプレゼンしていただきます。ただしPC禁止!着色もマーカーや色鉛筆等を使うこと。途中のスケッチも持参すること。」というものです。
<次回は企業からの返事が遅い理由についてです>
(下村航)
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