業界による違い デザイナー転職ガイド2025

今回は「業界による違い」についてお話します。

※過去に掲載した内容を加筆したものです。一気に読みたい方はこちら
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転職紹介の仕事をしていると、業界によって求められる人材が全く異なると感じます。A社では非常に高評価だった人が、B社では見送りになる、という状況がよくあります。以下に業界ごとの一例を上げます。採用試験ではこのような能力を実務経験として提示できるかどうかが合否の分かれ目になります。
(中堅以上の場合です。新卒や若い方は潜在能力として感じさせられるか、どうかが重要です)
(同じ業界内でも企業や、その時にいる他のメンバーによっても異なります。「現在は構造に強いメンバーが多いので、今回の採用ではスタイリングセンス重視で採用しよう」というようなことがよくあります)

自動車関連

デザイナーとモデラーが分業していることもあり、デザイナーは感情に訴える魅力的なスタイリングデザイン、それを表現するスケッチスキル、自動車を360度から表現できるスケッチスキルが求められる。また、大変複雑な曲面を扱うのでそれを理解できる高い立体認識能力も必要。エクステリア(外観)とインテリア(内装)が分業されており、中堅の募集では適した経験がなければ採用してもらえない。

エクステリアデザイナー、インテリアデザイナー、モデラーの中途採用では、そもそも自動車デザイン実務経験者以外は門前払いとなることが多い。
また、先行提案と量産経験が区別されており、例えば量産経験者を求める求人で、先行提案(モーターショー等のショーカー)ばかりをデザインしてきた方はその理由で落ちることもある。
ほぼ全ての会社で、実技試験があるのも特徴。

クレイモデラーは、デザイナーが描いたスケッチをインダストリアルクレイ(デザイン用粘土)を使ってデザイナーの思い描く形に立体化/具現化する。この際にエンジンなど自動車の内蔵物、フレーム、法的条件なども検討しながら具現化していく。クレイを思い通りの形状に削り出すスキルと高度な立体認識能力が必要。

3Dモデラー(デジタルモデラー・CASモデラー)は、デザイナーとクレイモデラーが作り上げた立体モデルを3Dスキャンし、そのデータをベースに、面形状の精緻化、内蔵物との緩衝の修正などを3D-CADを駆使して落とし込んでいく。そうした3Dスキルと高い立体認識能力が必須。
両モデラーとも、ほぼ全ての会社で実技試験がある。デザイナーと違い、家でやることができないので1日から数日かけて行われる。

カラー(CMF)デザイナーはコンセプトに沿ったカラーリングを提案する能力と、それをデザインに興味のない経営陣が納得するような理由づけができることが必要。理由づけ(コンセプト立て)は、メーカーにいて経験したことがないと難しいため、こちらもメーカー経験者を求められることが多いが、自動車業界でなくても可能な場合が多い。

※自動車デザイナーの方も、登録時は「プロダクトデザイナー」で登録した方が採用側の検索にヒットしやすいです。(時々「その他デザイナー」を選択し、自由記入欄にカーデザイナーと記載して登録する人がいますが、それよりもプロダクトデザイナーの方が良いです)

家電

スケッチで描いた形状をエンジニアと協議しつつ、3D-CADで実際の形状に落とし込む。仕上げはデータをレンダリングソフトにもっていき、レンダリングする。大企業であれば派遣社員の3Dモデラーがいる場合があるが、ほとんどの企業ではデザイナーも3D-CAD能力が必須。また、デザインコンセプト立案のためのリサーチや、CMFの新技術情報の収集、トレンド把握にもかなりの時間を割いている企業が多い。
(そもそも日本の大企業では、家電よりもB to B製品にシフトしているので、大企業での募集は非常に狭き門となっている。基本的には他社で家電製品をデザインしてきた人でなければ受からない)

中企業、新興企業であればとにかくスピードが重要。パーツレベルまでデザイナーが3Dで作りこみ、そのまま製品化して時間短縮している企業もあれば、逆にデザイナーはIllustratorで二面図やイメージ画だけ描いて、あとは製造を担当する中国企業が3Dにして試作してしまう、というケースがある。

デザイナーを社内に置かずにデザイン事務所に外注しているケースも多い。求められる能力は、大企業では同製品や共通点のある製品のデザイン経験。大企業では特にコンセプト立案のためのリサーチや分析を重視している企業が多いため、そうした経験のある方はそこをうまくアピールすると有利になることもある。また、必須条件として、「電気部品を内蔵する製品のデザイン経験」を挙げていることが多い。最近ではUXデザインの視点で上流から下流まで提案できること、をポイントにする企業も多い。

医療業界

流れ自体は概ね家電と同様。しかし最も大きなポイントとしては、見た目で選ばれる製品ではないため、いかに医師と患者が使いやすいデザインができるか、という点をベースにデザインする点。患者はまだわかるが、医者になることはできないので、それを医療現場を再現したり、忙しい医師にヒアリングの機会を設けたりしてそれをヒントにデザインを向上させる。また、薬機法など医療業界特有のさまざまな制約条件があり、それをクリアしないと発売できないため、デザイナーが望んだ形状にならないことが多々ある。制約条件をクリアしつついかに使いやすいデザインに近付けるかが重要。一つ一つの製品サイクルが長いことも特徴。

某医療機器企業のデザイン部長いわく、「何人か家電業界から転職者を受け入れたが、前職の常識が通じないので戸惑ってしまう。特にベテランは耐えられなかったようで短期間で転職してしまった」とのこと。それほど業界での違いは大きいとのことだった。

生活用品

プロダクトデザイナーが商品企画を兼ねていることが多く、企画力、コスト意識が大変重要。材料、樹脂に対する知識や成型に関する知識も他業界よりも強く求められる。可動する製品も扱っている会社であれば、ギミック(部品の動きをどうやって実現するか)に対する知識も重要。また、一人当たりが扱う製品数が多く、ある生活用品メーカーの転職希望者のポートフォリオには、数百におよぶ製品化実績が掲載されていた。その方はいかに整理して掲載するかに苦労していた。

さらに、パッケージやパンフレットなどのデザイン制作も兼ねることもあり、グラフィックデザイナーのスキルも必要な場合もある。
家電と同様、デザイナーが3Dまで作りこむ企業もあれば、Illustrator二面図やイメージ画だけで十分な企業もある。布製品も扱っている企業は二面図のみの企業が多い。

玩具/文具

 生活用品に近いが、さらに商品企画力、ギミック提案力、コスト意識が求められる。また、入社後に製品安全の基準をきっちりと教え込まれる。玩具と文具は企画部分や大きく異なるが、スキル的には近いものがある。なお、玩具というとネフのようなおしゃれな玩具を夢見ていたのに、実際に入ってみると機関車トーマスやアンパンマン、ミッキーを商品につけただけで大ヒットしてしまうことにショックを受ける方も多い。

腕時計

流れ自体は家電製品に近いが、ファッション的なセンスが重要で、男性向け、女性向けのデザインを描き分ける能力が求められる。男性向け腕時計担当、女性向け担当で分かれている場合も多い。ある大企業では、「手描きスケッチスキルと3Dスキル、両方が必要」とあった。雑貨的な腕時計メーカーでは、Illustratorで平面図を作成して、製造工場に依頼するスタイルをとる。その代わりに年間50本など多数の製品化が経験できる。大手企業は年間数本だがそれぞれをじっくりと細部までデザインする。(非常に細かいデザインの為、10倍の拡大図で出力して図面を作成することもある。)

『100年以上前から基本形状は変わっていないが、常に新鮮なデザインを求められる』という難しさがある。

デザイン事務所

デザイン事務所は、手掛ける商品によって上記のそれぞれの能力が求められる。多くのデザイン事務所がメインとしている分野があるため、基本的にはそこに合う方。しかし、どの企業も、学校で学んだ時のように正統派のプロダクトデザインスキル、ラフスケッチを描いて、形状を詰めていって、立体を3Dで詰めていく、というスキルを重視する。基本的に3Dスキルは必須。

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以上、あくまで一例ですが、このように千差万別です。また、もっと大きな枠で「大きな製品の経験」「小さな製品の経験」というのも全く異なるため、ある手のひらサイズの製品のメーカーの採用試験では、自動車のような大きな製品デザイン経験のみだった方がその理由で落とされたことがありました。

異なる業界に転職するために一つアドバイスです。
多くの方はポートフォリオに自分が手掛けた商品の最終形状を載せてくるのですが、最終形状の見方は上記のように業界によって異なります。

従って、そこに至るプロセスまでをポートフォリオに載せることが非常に重要です。最終形だけでは担当者が判断できません。プロセスまで掲載してもらえれば、自社の業界での内容に変換して判断することができます。手描きスケッチはもちろんのこと、途中での発泡モックや3Dプリンタでのモデルでの部分的な検討、さらには他部署との意見の衝突をこのように回避した、等のエピソードを載せても効果があります。

若い方は、学生時代のポートフォリオを別添資料として合わせて出すことをお勧めします。わざわざポートフォリオに組み込まなくても、別冊で十分です。現在の仕事と違う側面が見せられるので、プラス効果があります。

<次回は「求人の募集期間の長さ、応募者の回答期限」です>
(下村航)


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