手描きスケッチの重要性Ⅰ デザイナー転職ガイド2026 

この連載ではプロダクトデザイナー向けの転職ポイントを掲載していますが、他のデザイナーにも参考になると思います。
※過去に掲載した内容をアップデートしたものです。一気に読みたい方はこちら。

今回はプロダクトデザイナー(アプリではなく自動車・家電・雑貨等の物理的なプロダクト)に向けた内容で、「手描きスケッチ」についてです。紙と鉛筆やマーカーだけでなく、ペンタブレットを使って描くものも、ここでは手描きスケッチに含めます。

企業が手描きスケッチを重視する理由

プロダクトデザイナーの求人内容をヒアリングすると、やはり手描きスケッチの重要性を切に感じます。業界にもよりますが、それとほぼ同等に求められるのが、3D-CADおよびレンダリング能力。他にも製造の知識や構造、機構、交渉能力などがありますが、まずは手描きと3Dです。

ある企業の方が、こんな話をしていました。

「『手描き』と『3D』は車の両輪みたいなもので、どちらも同じように大事。ただし、今回の募集は20代の若手希望なので、まずは手描きスケッチを重視する。3D-CADは入ってからいくらでも教えられるけど、手描きは教えられないから。」

なお、ここでいう手描きスケッチとは、サムネイルやアイディアスケッチのことです。初期段階でサッと描いて思考を広げるラフなスケッチの能力が求められます。(カーデザイナーの場合は、Photoshop等で色を付けたスケッチも求められます)

■参考1:日産のデザイン部のサイトにてスケッチを公開しています。
■参考2:自動車技術会 デザイン部会にて各自動車メーカーのデザイナーのスケッチを公開しています。ギャラリー「プロのデザイン画の世界」

また、最近では、新規事業企画の初期段階に手描きスケッチを使ったアイデア共有ができるデザイナーが重宝されています。たとえば会議の中で、「それって、こんな感じ?」と即興でサッと描いて見せられる人がいると、チームの思考を可視化することができ、議論が一気に深まるのです。「グラフィックレコーディング(グラレコ)」も、その瞬間のイメージを可視化する手描きスキルの使用例です。

このように、手描きスケッチに求められているのは、きれいな完成予想図を描くことだけではありません。きれいな完成予想図は3Dを使ったレンダリングでOKです。しかし手描きのラフスケッチは考えるための道具であり、かつ相手(上司、同僚、時にはクライアントも)に伝えるコミュニケーションツールでもあります。

ある企業の選考担当のデザイナーの方が、こんな話をしていました。

「彼は絵が描ける方ですね。うちの製品は円の部品が多いので、この楕円を見ればある程度能力がわかります」
円や円柱を立体として描く場合、見る角度によって楕円の形は変わります。こうした基本的な形の描き方にも、立体を捉える力が表れるということなのでしょう。そしてその候補者は書類選考を通過しました。

「絵を重視するというのは、絵の上手い下手じゃないんですよ。
 デザインを発想するところでは、生身の人間が、手を使いながらものを描く、そして描くことで頭が活性化する
 - それが大事なんですよね。

 (中略)

 ただ、僕たちはデザイナーだから、何のためのスケッチなのかを忘れてはいけない。
 僕たちにとって絵は、的確に、速く、相手を説得するためのコトバなんです。
 だからインターンの学生にも、僕らの絵は記号でいい、と言ってるんですよ」

こうした「考えるためのスケッチ」「伝えるためのスケッチ」は、実際の採用選考でも見られています。

選考課題でラフを見る理由

特にプロダクトデザイナーの一次面接では、事前に課題が出され、2週間後に対面でデザイン案をプレゼンする、という形式がよくあります。その際に、多くの企業が途中のラフスケッチもできるだけたくさん持ってくるように言われます。

企業はそのラフスケッチから、アイデア発想の豊富さを見ています。例えば選択したデザインが無機質でシンプルな形だったとしても、途中段階として有機的な形や複雑な形が出ていれば、そうした発想の「幅」を見ることができます。また、どのような案を検討し、そこからなぜ最終案を選んだのかという、考え方のプロセスを見る材料にもなります。

逆に落とされがちなのが、全くラフを描かずに完成デザインだけの人です。

課題内容はたいてい自社の製品に関わるものなので、応募者が作成したデザイン案は、専門家であるその企業のデザイナーから見れば、穴や見落としがあることが多いです。そうした時に、完成デザイン1案のみだと、何も反論できなくなって見送りになることが多いです。

途中ラフでいろいろな案があると、先方から、「こっちの案、良さそうですね。なぜこれを落としたんですか?」などと話が広がり、挽回できることもよくあります。

まとめ

どんな職種でも、採用面接では候補者のコミュニケーション能力も見られます。デザイナーは言葉に加えて、絵でもコミュニケーションします。絵によるコミュニケーションは、言葉がわからなくても世界共通に通じるという利点もあります。これもデザイナーの強みだと思います。

ポートフォリオには、最終レンダリングだけでなく初期段階の手描きラフスケッチ、アイディアスケッチを加えることを強くお勧めします。スケッチ力は、描き続けることで確実に上達します。次回は、実際に練習や研究に役立つ参考書籍をご紹介します。

 

<次回は「手描きスケッチⅡ:参考書籍紹介」です>

下村航

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